手を鳴らして呼び続けてね
「わたしたちはずっと手をにぎってることはできませんのね」
「ぶらんこのりだからな」
だんなさんはからだをしならせながらいった。
「ずっとゆれているのがうんめいさ。けどどうだい、すこしだけでもこうして」
と手をにぎり、またはなれながら、
「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」
いしいしんじさんの「ぶらんこのり」の一節です。中学生の時に、繰り返し繰り返し読んだ節。
この夏、いやこの数年を経て、旅立つひとの背中を見る度に思い出していました。
目を下にやると真っ暗闇の世界で、向こう側にキミがいるともわからない。それでもギュッと握り返してくれると信じながらとびだしてゆく。
キミとわたしが手をつないでいられるのは、その力は、理屈やましてや物理的な力なんてものではなくて、信頼と愛情、そして優しい嘘。ただキミが好きなんだ。どんなときもキミがいいんだ。いつか夢は醒めてしまうなんて、今だけは知らないふりをして。きゅっと目を瞑って。
そして、ふたりで揺れながらも、自分勝手なわたしは手を離すのはいつだってわたしからだと思っていました。嘘が解ける瞬間は、わたしが目を開けた時だと。キミはいつだって手を差し伸べてくれて、まるで本当かのように優しい嘘をついてくれるのだと。
キミを失ったわたしは落ちることもできなくて、ゆらゆらとひとりで揺られています。確かにいたキミの面影をいつまでも探したままで。
キミの大人になっていく過程を、みんなでキラキラとステージで輝く姿を、当たり前のようにたのしみにしていました。当たり前なんてどこにもないのにね。
あの最高に楽しくて愛しい夏で最後だったなんて、今でも信じられないし信じたくないし。でも、でも、こんなに好きって思わせてくれて、楽しませてくれて本当に本当にありがとう。ぎゅっと手を握り続けてくれてありがとう。トラビスジャパンでいてくれてありがとう。思い出すと胸が痛くなるのはきっと治ってはくれないけれど、その痛みを感じるときにはキミのとびきりかわいい笑顔も思い出すよ。そしてキミの幸せを願っています。
「でも、大丈夫。
大丈夫って私にはわかる。
だって、ぶらんこは行ってはもどりする。はるかかなたへ消えたようでも、ちゃんとまっしぐらな軌道をえがき、ちょうどいい引力に従って、もといた場所にもどってくる。
それに、忘れちゃいけない。弟は世界一のぶらんこ乗りだ。」